円形の広場と、それを囲うようにある観客席。 そんな古代の闘技場を思い出させるような開けた空間の観客席を埋め尽くし、今か今かとざわつくのは多種多様な種族たち―― この日を待っていた者は少なくない。 今日は新作VRMMORPG、Beyond Ideal Online――通称BIOの配信1ヶ月を記念した初の公式大会が行われる日だ。 全世界同時生配信でニュースになるほどの大規模ビッグイベントで、プレイヤー達に「サーバーエラーを起こすのでは?」とまで言わしめたほどだ。 そんなイベントだけど、ルールに関しては至って簡単。 一週間前にあった、総合能力値が100位以内の人同士で行われるランダムな20人での一体一のPVPの試合。 その結果、勝率のよかった上位16人がトーナメント戦を行う。それが今日のイベントだ。 「大変長らくお待たせしました。これより第一回公式PVP大会を開催致します」 そんな少女の機械声アナウンスが会場に響いた。 会場では、これを待っていたと言わんばかりの盛大な歓声が上がる。 「では、初めにルールをご説明させていただきます」 アナウンスが順を追ってルールを説明していく。 しかし、このイベントのルールはシンプル。観客を始め、このイベントを見ている殆どの人間がこの日を待ちわびていた。 そんな者達にとってルールとは周知の事実。試合に胸が高鳴り、ルール説明なんてものはもはや耳に入ってこない状態だった。 「では、こちらが抽選によって決められたトーナメント表です」 会場の8方面に向かって巨大なモニターが映し出される。 そのモニターには、今回の16人の顔と名前がペアごとに次々と映っていく。 そして、最後にモニターに16人の名前と上下対になったトーナメント表が映し出された。 「それでは、第一回戦の選手をご紹介します」 第一回戦のペアの顔と名前がモニターに映される。 「総合能力値第17位――イリス選手」 アナウンスの声と共に出てきたのは長い銀髪の大人びた女。白の修道服を身にまとい、首元には十字架のネックレス、右手には背より高い銀色の杖が握りしめられている。 そしてなにより、その神聖な衣装からは考えられないほどピリピリとした、まるで周りを威圧するかのような強者の持つオーラを放っていた。 「総合能力値第8位――アルト選手」 女とは反対側から出てきたのは、顔を除く全身に空色に輝くプレートアーマーを身につけた、腰に一本の剣を携える勇者風の金髪の男。背は高く、爽やかな雰囲気をさらけ出している。 そんな男に、観客の女たちは黄色い歓声をあげている。そして、そんな女たちに向かって男は笑いながら手を振っていた。 しかしながら、やっぱり上位16人に選ばれただけのことはあるようで、先のプレイヤーに勝るとも劣らない佇まいと、存在感を放っていた。 装備も武器も性別も性格も違う正反対の二人が、対面する相手と向き合う。 「・・・・・・よろしくお願いします」 「お手柔らかに頼むよ」 女は警戒しながら、男ははにかみ笑顔で挨拶を交わす。 「では、第一回戦開始致します」 沸き起こる歓声がピークに達する中、アナウンスの声と共に、いよいよ第一回戦が始まった。 ――ように思われた。 「は?」 観客の一人が呟いた。 会場に響き渡っていた歓声も今や何一つ聞こえない。 円形の広場――そこは今から戦う2名の選手が立っている。 しかし、第8位のアルトの胸元には鎧を貫通して一本のダガーナイフが刺し込まれていた。 そこには誰もいなかった。誰もいなかったが、今はアルトの胸元に刺さったダガーを引き抜き、それを握りしめ立っている者がいる。 真っ黒なローブに身を包んだ骸骨顔の者が―― 「くっ・・・・・・!!」 会場に沈黙が流れる中、刺された張本人であるアルトは腰の剣を抜き、それを目の前の敵に振るった。 しかし、その剣は骸骨顔のローブをはためかすに終わり、何もなかったのように身体をすり抜けた。 自分の攻撃が通じないからなのか、あるいは想定外の状況が起こっているからなのか、アルトの顔は真っ青になっていた。 一方でアルトの対戦相手であるイリスは、杖を構えるも何も動けず、警戒半分恐怖半分の顔で固まっている。 誰も動けない状況。 その次の瞬間アルトの姿がパッと消えた。 そして、数秒後に骸骨顔の者の姿も同じように消える。 沈黙が崩れたのは、それから10秒ほど経ってからのことだった。 会場は大パニック、イベントの始まる前の歓声はいつしか悲鳴に変わっていた―― 第一回BIO公式大会。 BIO史上語られ続けるであろう記念すべきイベントは、突然現れたその者と参加者の死亡《デス》によって幕を閉じた。 【速報】例の連続PK犯、ついに公式大会にも手を出す 001 BIOから名無し ガチでやばい 002 BIOから名無し あれ見てたけどなに? 003 BIOから名無し >>002 有名なPKプレイヤー、前々から目撃情報とかあったけど謎だらけ 004 BIOから名無し ってか運営が横槍対策してないのが笑える 005 BIOから名無し あれって映像見る限り骨人種だよな 006 BIOから名無し 今北。これって大ニュースだよな。現場いた俺ラッキーだわ 007 BIOから名無し でも正直あれ見たかったわ。延期だっけ? 008 BIOから名無し >>005 映像だけ見るとそうだけど、でも骨人種って物理攻撃効くだろ? あいつアルトの剣当たってなかったんだよ 009 BIOから名無し >>007 らしいな。一週間後だっけ? 010 BIOから名無し >>008 ならあいつなんなんだよ。物理攻撃無効スキルがあるとか? もしあるなら運営が頭おかしいだろ 011 BIOから名無し >>008 でも総合能力8位倒せるってことはトップランカーだろ? だけど100位以内に骨人種スケルトンなんか1人もいなくね? 341 BIOから名無し >>003 調べてきたわ。なんか名前があるらしいな。確かデスリアルだっけ? 「よいしょっと・・・・・・」 ピンク色の壁紙が貼られた子供部屋。ベッドと勉強机、小さな机は置いてあるもののそれ以外の大きなものは立方体の黒い機械以外置かれていない。 そんな部屋の主が、ベッドから体を起こし、頭に付けた白い被るタイプの機械を外した。 肩にかかる明るい茶髪、白い肌、160後半はある背丈。綺麗というより可愛いに近い少女。 街を歩けば人は振り返り、歩く姿はテレビで活躍するモデルと遜色ないほどである。 「うへへ・・・・・・」 彼女の学校の者で普段の彼女を知る者が、今のこの姿を見れば間違いなく口を開けて驚くだろう。 休みの日にも関わらず、学校の体操着である青いジャージを着て、うっとりとダメな笑みを浮かべる――そんな彼女こそ、BIOで最も恐れられる最悪のプレイヤーキラーDeathReal《デスリアル》ことシリアルだった。
「あおいーっ!」 「もうっ、どうしたの?」 クラスメイトの女子に後ろから抱きつかれた柏崎 葵《かしわぎ あおい》は笑いながら後ろを向いた。 「実は今日出す課題が終わってなくてぇ.........あおいさん、何とかなりませんかねぇ?」 「はいはい。どうぞ」 呆れた様子を見せながらも葵は机から黄緑のノートを取り出し、それをクラスメイトに渡した。 「ありがとう! あおい!」 ノートを借りたクラスメイトは急いで自分の席に戻り、せっせと課題に取り組み始めた。 ――頭脳明晰、運動神経抜群。その上、誰にでも優しい完璧美少女とは私のこと。 柏崎 葵は自分の全てに自信があった。 努力すれば叶わないことは無いと信じて、それを実現させるだけの力を持つ。 休み時間の間、葵に話しかける生徒は少なくない。柏崎 葵は、その一人一人に嫌な顔一つせず笑顔で返事をする。 可愛すぎる天使。優しすぎる女神。 男子の間で呼ばれるあだ名は柏崎 葵 本人の耳にも当然届いていた。 そんなにも男子から人気があるにも関わらず、女子からは一切嫉妬の目で見られないのは、柏崎 葵が八方美人すら生温い、完璧美少女だからである。 「今日みんなとカラオケ行くんだけど、葵はどうする?」 放課後、複数のクラスメイトからそのような遊びの呼びかけがかかる。これは決して珍しくない――というか、いつものことだ。 「ごめんっ! 今日も用事で!」 葵は大袈裟に前で手を合わせて謝った。 「葵らしいね。じゃあまた日が合う時にでも」 「うん」 本気で悪いと思っているという姿勢をとることで、誘った本人も気にせず笑ってそれを許す。 誘いを断った葵は、教科書をカバンに詰め込んで帰る準備をする。 「んでねー」 「えー! なにそれー」 葵は声の方をチラリと見た。 そこには、先程自分が断ったクラスメイト達の楽しそうな顔があり、葵はそれに顔を曇らせる。 私は完璧美少女だ。そうじゃなきゃいけない。 でも―― 「楽しそう.........」 ボソッと呟いた葵の消えかかるような小さな言葉を耳にした者は誰一人いなかった。 柏崎 葵は完璧美少女である。 しかし、友達がいない。 ◆◇◆◇◆ 「はぁ・・・・・・」 葵は家に帰るなり大きなため息をついた。 時刻は午後5時。 部活をしていない葵にとってはいつもより少し遅い時間だった。 「ただいまー」 葵がそう声に出すも返事はない。 ゆらゆらと歩いてリビングに向かうと、ソファの上に葵と同じ髪色の女性がうつ伏せで寝ていた。 「お母さん。風邪ひくよ?」 「ううん? ああ。もうこんな時間か」 その女性、葵の母は目を擦りながら体を起こす。 「葵、私はもう行くから後はお願いね」 「うん.........」 葵は弱々しい声で返事をした。 「ていっ」 「痛っ!」 俯く葵のおでこに葵の母はデコピンを入れた。 「無茶しちゃダメよ」 葵の母はニッコリと笑いそう言うと、リビングから出て、ガチャりという音と共に家から出ていった。 呆然としていた葵だったが、母が出ていくとクスリと笑い、台所に向かった。台所の机の上には煮物と焼き魚、そして書き置きがあった。 「食べる時はレンジでチンしてください。味噌汁もあるのでお忘れなく・・・・・・って私は子供か!」 葵は書き置きに突っ込みを入れながら、文がまだ続いていることに気づいた。 「今朝渡したあれの感想を教えてね・・・・・・かぁ」 葵は部屋に入り、荷物を置くと、小さな机に置いてある白い箱を開封し始めた。 これまでにもこういうことはあった。うちは片親でこんな物買うお金はない。 けど、仕事のお客さんから貰ったとかで、こういった物がよく手に入ったりする。 そして、自分はしないからと私に気分転換にと渡してくるのだ。 「でも、VRMMOは初めてかなぁ。これまでは携帯タイプのゲームばっかだったし」 箱を開封すると、正方形の黒い機械、白いヘルメットのような機械、白いバンド型の機械、そしてそれを繋ぐためのコードが出てきた。 「ええっと、Beyond Ideal Online《ビヨンド アイディアル オンライン》。最高のオリジナリティと剣と魔法の壮大なる冒険をあなたに・・・・・・かぁ」 正直これだけ見ても惹かれるものはない。 自分で買ってまでやりたいかと聞かれたら、間違いなくノーだ。 「とりあえず宿題と予習だけ終わらせますか」 葵は開封した機械をそのままにして、勉強机に着き、勉強に集中した。 ◆◇◆◇◆ 「よいしょっと」 予習が終わり、葵は時計を確認した。 午後10時。いつの間にか外は真っ暗だ。 葵は後ろにある機械にチラリと目を向けた。 「ご飯食べて、お風呂に入って、それからかな?」 ――そしてかれこれ1時間。 「じゃあ始めますかぁ」 葵は説明書にある通り、バンド型機械を手首にはめて、それとヘルメット型の機械、正方形の機械をコードで接続する。 そして、正方形の機械の電源を入れた。 「後はこれを被れば始まると」 未知の冒険がそこに待っている。 しかし、葵はワクワクどころか、事務的に作業を行い、ゲームをスタートした。 【welcome to you!!】 目の前に大きく現れる文字。 【最初に設定を行ってください】 葵は目の前に見える指示文に従って設定を次々と済ましていった。 生年月日、好きな物、趣味、まるでアンケートみたいだ。 【次にあなたの種族を教えてください】 種族? いきなり現れた言葉に葵は首を捻る。 すると、数多くのキャラクターの姿とその種族名とも思える名前が目の前に現れた。 「ええっと、人間種《ヒューマン》、森人種《エルフ》、小人種《ドワーフ》、妖精種《フェアリー》、色んなのがあるなぁ。どこかで聞いたことある名前もチラホラあるし」 葵は手を横にスクロールして種族を順番に一つずつ見ていった。 「だいたい分かってきた・・・・・・かな? 種族によって見た目が変わるだけじゃなくて、ゲームで有利に進められる能力なんかも変わってくるみたい」 そんなことを考えながら、15分ほどで葵は100種全ての種族に目を通しきった。 「これにしよっと」 葵はその中でも一番気に入った種族を選んだ。 「ええっと、キャラメイクは・・・・・・おまかせでいいか」 【キャラメイク完了しました。分からないことがあれば、ヘルプを唱えてもらえればいつでもお答えします】 凄い! 現実でもヘルプ欲しい! 現実でもヘルプが使えるなら是非とも気の許せる友達の作り方とか、効果的なリラックスの仕方とか、ストレスの減らし方とか・・・・・・やめとこ。 【ではあなただけの世界を。最高のオリジナリティをお楽しみください】 すると、目の前が暗転した。
葵が周りを見渡すと、そこは童話とかにある外国の農村のような場所だった。 普通に考えるなら、こんな田舎村に人は多くいないはず。けど、周りには都市と変わらないくらい人がいた。 「ヘルプ」 さっそく先程言われた通りにヘルプを開く。 さっきの説明でこの場所。さすがにここがゲームの中なのは分かるんだけど・・・・・・だけど色々と説明不足感が否めないなぁ。 「ミラーシステム?」 ゲームの不親切さに愚痴こぼしながら、葵はヘルプの欄にあるミラーシステムというものに目をやった。 【ミラーシステム:自分の姿を三人称で確認できる】 葵は「へぇ」と興味なさげに口に出した。 キャラメイクはおまかせにしたし、元よりこのゲームをそこまで真剣にやるつもりはない。 だから、自分の姿を見れたところで、興味なんかわかない。わくはずもない。 「・・・・・・でもまぁ、せっかくあるんだし使ってみようかな」 葵がそう考えると目の前にミラーシステムと書かれた文字が現れた。 葵は、これまでの要領でその文字をタップすればいいと推測して文字を押した。 「なっ!?」 葵は思わず大きな声を上げて、慌てて口を防ぐ。周りの人がチラチラと変なものを見る目で見ている。 そんなことはどうだっていい! 肩にかかる白に近い紫の髪。顔の構造は現実世界のとほとんど変わらない、というより瓜二つ。背丈すら現実世界の160後半とほぼ変わらない。 しかし、胸! そこには立派な立派な2つの山があった。 私は完璧美少女。でも、唯一欠点を挙げるとしたら、胸がない。いや、あるにはあるよ? でも少しだけ、少しだけ普通より小ぶりなのだ。 お母さんにはあんなに立派なものがあると言うのに、私はいつまで経っても育たない。現実はなんて悲しいものなのか。 「しかもちょっと透けてる感じが可愛いかも」 よく見ると、肌とかが少し透けている。 【霊人種《ゴースト》:この世に未練を持って死んだ人間の成れの果て。体は透過し、若干の冷気を帯びる】 この説明を見た時点での葵の反応は、特に他の種族のものと変わらなかった。 しかし、【種族効果:物理攻撃を無効化する】これまでやった事のあるゲームで、序盤に攻撃を無効化してくる敵が出てきて苦戦した経験がある葵は、この文章を読んで無難に強そうと考えた。 そして、数ある種族の中で霊人種《ゴースト》を選んだわけである。 「えーどうしよっかなー。全然やる気なかったんだけどなー。でもせっかくお母さんがくれたんだし、ちょっと本気で遊んでみてもいいかなー」 ちょっと本気という他人が聞いても意味が分からないであろう言葉を使い始める柏崎 葵。 そんなことで、葵のちょっと本気のゲームプレイが始まった。 最初に葵は次に何をするべきかヘルプをもう一度読むことにした。 【このゲームでは、オリジナリティを出すために3つの要素を用意しています。それぞれ『ステータス』『職業』『スキル』となっており、それらはポイントで能力を伸ばすことができます 】 「ふむふむ」 葵は勉強と変わらぬ集中を見せる。 【ポイントは、最初に500配布いたします。その後、最高レベルの100になるまで、その時点での達成レベル×50のポイントを配布いたします 】 ――ということは、2から100までの50Xのシグマで・・・・・・252450? 確かにそれだけの数値を割り振ることになると、個性が生まれてくるかも? そこまでのことを十分に理解して、葵は次の説明にスクロールした。 【ステータスとは、体を作る基本的な能力値のことで HP《エイチピー》 MP《エムピー》 ATK《アタック》 DEF《ディフェンス》 INT《インテリジェンス》 MGR《マジックレジスト》 AGI《アジリティ》 LUK《ラック》があります。なお、これらの初期値はオール1です 】 HP《エイチピー》なんかは分かる。それが0になると死んじゃう数値。 MP《エムピー》は・・・・・・それを使って魔法とかが使えるんだと思う。 あとは、そのままの意味なのかな? でも、英語と効果が微妙に違うかもだし、あとで確認しておこう。 【職業とは、種族効果のような能力が後天的に得られる要素です。ポイント10で取得でき、その後10ポイントごとにレベルが上がり、レベル5になると上位職業を20ポイントで取得できます。 さらに、そこから20ポイントごとにレベルが上がり、その上位職業がレベル5になると最上位職業を30ポイントで取得できます。 さらに、それをレベル5まで30ポイントずつ使用して上げることが出来ます。 職業によっては、上位職業や最上位職業などがないものもあり、その職業の場合は上位職業や最上位職業のある職業と比べて強い効果を持っています。 最大で三系統の職業を取得することができます。】 ええっと・・・・・・うん、次。 【スキルとは、職業とは異なる特殊能力です。誰でも取れる基礎スキルが1000種あり、10ポイントごとにレベルが上がり、レベル5で最大となります。スキルの種類は発動《アクティブ》スキルと常時《パッシブ》スキルの二種類があります。また、条件を満たすことでスキル選択欄に発現する隠しスキルが存在します】 はい。 葵は一通り全てに目を通した。 「これは参考書かなんかかっ!」 葵は思わず周囲も気にせぬ勢いで突っ込みを入れた。 けど、参考書でももうちょっと丁寧な解説をしてくれるはず。わからない言葉はヘルプでさらに調べることが出来るんだろうけどさぁ・・・・・・ 「よし。やめよう!」 作戦を変えよう。 今まで初めて手に付けることは事前に完璧な準備を済ましてから取り組むようにしてきた。 でも、そんなことをしていたらいつまで経っても強くなれない気がする。だから、実戦から入ろう。 葵は戦える場所を探すことにした。 これまでのゲームの経験から葵は、モンスターを倒せば経験値が得られ、それを沢山得ることでレベルアップが出来るという程度の知識はあった。 葵はキョロキョロと周りを確認する。 複数人で行動してる人達には話しかけ辛いから、一人の人を探そう。 葵がそんなことを考えていると、フード付きの厚生地の青いコートのようなものを羽織った白服黒ズボン、そして骸骨顔という周りとは少し変わった印象の人とすれ違った。 普通の女子高生なら関わりたくないような奇妙な人だが、普通の女子高生ではない葵は気付けばその者に話しかけていた。 「すみません」 「ん?」 葵の呼び掛けで、骸骨顔の人は足を止める。 「あのすみません。お尋ねしたいことがあるんですが」 「・・・・・・へぇ。霊人種《ゴースト》か」 うわぁ。やばい人かも。 さすがの葵も変わった反応に動揺を見せた。 「ああ。ごめんごめん。僕はアルスマナ」 「あっ! シリアルです!」 葵は慌てて名前を名乗る。 たまに食べるコーンフレークが好きだからシリアル食品から取ってシリアル。 適当につけた名前だけど案外この見た目でシリアルって可愛いかも? 「うん。それで、シリアルさんは僕にどんな用事で話しかけてきたのかな?」 ああ。そうだ! 「えっと、モンスターとかと戦いたいんですけどいい場所とかってありますか?」 「ああ。それなら、この街の東門から出た先にある森の奥にある水辺がいいと思うよ」 「・・・・・・なんで水辺なんですか?」 「えっとね、大体の人はね、経験値効率のいい北門の先にある荒地とか、その森の手前でモンスターを狩るんだけど、それって周りにスキルとか公開してるも同然なんだよね」 あっ、確かに。と葵は納得する。 「個性が生まれるのがこのゲームのいい所なのに、その個性をこんな早々に人に見せて対策され放題とか笑えるよね。君も隠したいでしょ?」 「はい! 教えていただきありがとうございます!」 葵はぺこりとおじぎをして、トコトコと東門に向かった。 その姿を興味ありげに見るアルスマナのことを、葵が知るゆえもなかった。