禁断のシルク
第1章蚕女

もし、着るだけで大学統一試験の首席になれる服があるとしたら、あなたはどうするだろうか? 私の母は蚕女。母が吐き出す糸で織られた服は、たとえ愚か者であっても、袖を通せば首席合格者へと変えてしまうのだ。 この奇跡のおかげで、私たちの村は近隣にその名を轟かせる『状元村』となった。だが、村の誰も気づいてはいない。優秀な成績を収めた子供たちの瞳から、次第に光が消えていくことに。 1. 私たちの村は深い山々に抱かれ、麓の町からたどり着くには、険しい山道を三時間は歩かなければならない。 教育環境には決して恵まれていないこの地から、ここ数年、立て続けに天才が生まれている。いつしか県は、この村を『状元村』と改名した。 そして今年、村長の息子が大学統一試験で県の理科首席に輝いた。テレビ局が取材に訪れたその時、私は地下室で母に食事を与えていた。 露に濡れた新鮮な桑の葉が山と積まれている。その傍らで、母は藁のベッドに横たわっていた。閉じた瞼、わずかに開いた唇からのぞく鋭い歯。一口、また一口と桑の葉を咀嚼するたびに、雪のように白いその贅肉が、まるで巨大な蚕のようにうごめいた。 階上から、記者の耳障りな追従の声が響いてくる。「いやはや、この村は本当に素晴らしいですね!前回の市首席は文系も理系もこの村からでしたし、今年はなんと県の理科首席ですか。まさに人傑地霊の地ですね!」 おだて上げられた村長は、待ってましたとばかりに自慢話を始めた。「ご存じないでしょうが、うちの天宝は幼い頃から神童でしてな。二歳で字を覚え、三歳で新聞を読み、五歳になる頃には琴棋書画のすべてを修めておりました。県首席というのも、あれの実力からすればまだまだ。もう一度受けさせれば、全国の理科首席間違いなしですな」 私は隣で鼻をほじっている愚か者に目をやり、思わずため息を漏らした。(あんたのお爺さん、よく言うよ) 彼は私が何を考えているのか知る由もなく、ただへらへらと笑いかけてくる。 村長の孫である天宝が、生まれながらの愚か者であることは村の誰もが知っている。三歳になっても歩けず、六歳でようやく言葉を覚え、去年になってやっと一人で食事ができるようになったばかりなのだ。 記者が不思議そうに尋ねた。「では、なぜもっと早く天宝君を都会の学校へ? 教育資源はこちらよりずっと豊富でしょうに」 村長がわざとらしく咳払いを二度すると、父がすかさず涙声で答えた。「我々は貧しいですから。子供は物心がつけば家の手伝いです。勉強する時間など、とても……」 記者はさらに食い下がる。「二、三年前、道路を舗装するという話があったではありませんか。 コンクリートの道ができれば、子供たちも外の学校に通えますし、村人の生活も便利になるはず。なぜ、計画は進んでいないのですか?」 その理由は知っている。数年前、村に道を通す計画が持ち上がり、県からの補助金も決まっていた。だが、そのことで父と村長が大喧嘩をしたのだ。 普段は村長に恭順な父が、その日に限っては鬼のような形相で村長の襟首を掴み、吐き捨てるように言った。「もし道を舗装し、この秘密が外に漏れたらどうなるか。あんたの孫の天宝は、二年後の試験どころじゃなくなるんだぞ」 すべては、母の存在を隠し通すためだ。 私の母は、この村で最も特別な存在――村の『蚕女』なのだ。 物心ついた頃から、母の住処は地下室だった。蚕のようにただ横たわり、毎日新鮮な桑の葉を喰らい、そして春になると、特別な絹糸を産み出すのだ。父はその糸で一着の服を仕立て、売りさばく。 その服は、袖を通した人間を、超人的な頭脳の持ち主へと変貌させる。 しかも、母が産み出す服の効能は年々増しており、今年のそれは、愚か者だった天宝を省の首席にまで押し上げたのだ。 記者の執拗な質問に、父は少し間を置いてから答えた。「この村の子供たちは、苦労に耐えることを美徳として育ちます。道を舗装するなど、子供たちを甘やかすだけですからな」 苦し紛れの言い訳だったが、記者はそれ以上追及せず、天宝の居場所について尋ねた。 「ところで、首席様は本日ご在宅ではないのですか?」 村長は、天宝は隣村の祖父母を訪ねている、と口ごもり、記者を追い返そうとした。 私は思わず吹き出してしまった。彼らは息をするように嘘をつく。この愚か者に祖父母などいない。いたのは気の狂った母親だけで、それも数年前に父親に殴り殺され、その父親もまた、崖から落ちて死んだのだから。 それでも記者は諦めきれないようだった。「去年、市の首席にお会いできなかったんですよ。今年は県の首席です。今回こそ、是が非でもお目にかかりたい!」

第2章母

村長の声には、隠しきれない怒りが滲んでいた。「うちの天宝は留守だと言っただろう。帰ってくれ」 母はもう食事を終えていた。私は藁の寝床に散らばった排泄物を片付けながら、チョークがなくなっていることに気づく。 私は天宝に話しかけた。「天宝兄さん、今度学校が終わったら、またチョークの切れ端を持ってきてくれない?」 天宝は私を見ると、人の良さそうな笑みを浮かべてこくりと頷いた。 空になった籠を手に、私は梯子を登る。上は農具置き場になっており、籠を元の場所に戻すと、一枚、また一枚と、床板を元通りに被せていった。 母屋へ様子を見に行くと、さっきまでの険悪な雰囲気はどこへやら、村長と父が記者と和やかに握手を交わしているではないか。 父は視界の端で私に気づくと、手招きをした。 「これが私の娘だ。宿泊場所まで案内させよう」 2. すぐに私は、村の来客用施設に着いた。二年前に新設された村の集会所で、この村で唯一のコンクリート建ての建物である。 建物には部屋が二つしかない。一つは村長の執務室で、もう一つは物置として使われている雑然とした部屋だ。 私は記者に言った。「ここで待っていて。夜になったら、誰かが布団と食べ物を持ってきてくれるから。村長の家はこの先すぐ、歩いて数分のところだよ」 記者は私に飴を一つくれると、優しい声で尋ねた。「僕は李だ。君の名前は何て言うのかな?」 彼の笑顔を見ていると、なぜだか地下室で横になっている母の顔が思い浮かんだ。 「二妮」 そう答えた私は、魔が差したように、つい言葉を継いでしまった。「母さんは昔、私のことを楽安って呼んでた」 彼の笑みが、ぴたりと止まった。「今日は君のお母さんを見かけなかったけど?」 全身が凍りついた。ずっと前に父から釘を刺されていたのだ。母の存在は誰にも漏らしてはならない、もし漏らせば半殺しにされた挙句、隣村の妻を亡くした好色な老人の元へ嫁がされる、と。 あの老人のいやらしい目つきと、ヤニで汚れた黄色い歯を思い出すだけで、全身に鳥肌が立つ。 今、母の存在を知っているのは、私と父、そして村長と、その愚鈍な孫だけだ。 私は慌てて両手を振った。「母さんは、私を産んで間もなく死んだの」 彼は何かを考えるように、じっと私を見つめた。その視線は奇妙だった。私を見ているようで、その実、私の向こう側にある何かを見透かしているような……そんな不気味さがあった。 全身から血の気が引いていくのを感じた。私は彼に「もう行くね」と告げると、振り返りもせずに家へと駆けだした。 家に戻ると、村長と父が、どうすれば天宝のことでボロを出さずに済むか話し合っていた。 「いっそ、天宝が寝入った隙に、何枚か写真を撮らせるのはどうだ?」 「だめだ、村長。万が一、彼が天宝を起こしてしまったらどうする。天宝が実は……なんてことがバレたら……とにかく駄目だ」 村長は焦りを募らせる。「じゃあどうするんだ。あと数日で、あの商売人がやって来る。それまでにこの記者を追い出さなければ、すべてがバレてしまう。そうなったらおしまいだ。俺たちは一銭も手に入れられなくなるんだぞ」 父はもどかしげに言った。「すべてはあんたのせいだ。たった二千万円のために承諾したりして。蚕女がいれば、あんたは生涯でその何倍も稼げるんだぞ」 村長は唾を吐き捨てた。「俺が後何年生きられる!天宝のために少しでも多くの金を残して、嫁を娶らせてやらなきゃ、俺が死んだら誰が孫の面倒を見るんだ!」 言い終えると、村長は父を嘲ることも忘れなかった。「お前に息子でもいれば、俺よりもっと……」 父が怒りに任せてテーブルを叩くと、間髪入れずに村長が茶を浴びせかけた。「この俺の前でテーブルを叩くとはいい度胸だ。誰のおかげで普段、お前の秘密が守られているか忘れたのか。よく考えるんだな。明日までには解決策を見つけろ」 村長は一呼吸おいて、続けた。「どうしてもの時は……奴を始末する。山から下りる途中で、足を滑らせて死んだことにすれば……」 そう言うと、杖を手に取り、ゆっくりと家から出て行った。 村長の姿が完全に見えなくなると、父が私を怒鳴りつけた。 「このクソアマ、こっちへ来い!」

第3章

私は恐怖で足が震えていたが、彼のそばに急いで行かなければならなかった。 彼が自分から来たら、もっとひどく叩かれるからだ。 彼の前に出た瞬間、迎えたのは棒で、「バシッ」という音とともに私の腕に直撃した。 その瞬間、左腕全体がしびれ、数秒後には焼けつくような痛みが走った。 しかし、私は左手を気にする暇もなく、右手で頭を守った。 次々と体の他の部分にも痛みが走り、棒が足に当たったとき、私は地面に転がり、唇をかみしめた。 泣いてしまったら、もっとひどく叩かれるからだ。 耳元には彼の罵声が響いていた。 「役立たずが、こんな無駄な娘を産みやがって。 」 「妊娠中に私の米と魚を食べて、こんな娘を産むなんて、いっそ存在しなければよかったのに。 」 「俺の家名を汚す。 」 …… 彼が叩き終わると、私の襟をつかんで地下室に投げ込んだ。 涙でぼやけた目で、元々地面に伏せていた母がゆっくりと私の方にやってくるのを見た。 彼女は太っていて指先が見えないほどの手で私の頭を撫でた。 一気に我慢できなくなり、涙が堤防を決壊したかのようにあふれ出し、母にすがりついて泣き叫んだ。 地下室は少し寒かったが、母の体はとても暖かかった。 3. ぼんやりと眠りに落ち、翌日は父に引きずり出された。 桑の葉を摘みに行かなければならなかったからだ。 行く前に父は長袖と長ズボンを着るように言い、ジャーナリストに傷を見られないように注意された。 痛みに耐えながら桑の葉を一かご摘み、戻るときに背後から細かな足音が聞こえた。 李という名前のジャーナリストがついてきたのだとわかった。 私は方向を変え、彼を別の場所に連れて行った。 「後ろにいるのはわかってる。 早くここを離れた方がいい。 」 ジャーナリストは隠れることをやめ、「昨日叩かれたのは知っている。 ここから逃れる手助けができる。 」と申し出た。 私は冷たく断った。 「ここは私の家だ。 逃げる理由がない。 」 彼は諦めず、「学校に行きたくないか?逃げた後、学校に通わせてあげることもできる。 大学卒業まで援助する。 」と言った。 私は沈黙した。 確かに学校に行きたい。 でも村では男の子だけが学校に行く資格があり、私が文字を少しでも読めるのは小さい頃に母が教えてくれたからだ。 母は以前、「私の楽安を大学に送る…」とつぶやいていた。 でも、私がいなくなったら、今の母を誰が世話するのか。 「ありがとう。 でも私は行けない。 ここに残る必要がある。 」と考えた後、彼に暗示を与えた。 「あなたがここに来たのは私を救うためだけではないことはわかっている。 でもここはあなたが思っているほど単純ではない。 早く逃げて。 」 桑の葉を摘み終えて戻ると、父は遅かったことを怒鳴った。 私は頭を下げて謝った。 体の傷が痛かったからだ。 村長から電話があり、父に対策を考えたかどうか尋ねた。 ジャーナリストがまた家に来たと言った。 父は苛立って、「まだだ、まずは時間を稼ぐ。 」と答えた。 「父さん、天宝にあの服を着せて問題を解かせましょう。 問題を解いている間はバレないし、ジャーナリストに天宝が問題を解いているから邪魔しないように伝えれば、天宝は話さなくて済む。 」 特別な糸で作られた服は普通の人でも試験問題を解けるが、元の頭脳を変えることはできない。 天宝はただの馬鹿で、問題を解くことができても、それ以外はただの馬鹿のままだ。 父は頭を叩いて私を褒めた。 「お前、この役立たずが、こういう時には少しは役に立つな。 」

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