十年もの間、私は力なきオメガとして生きてきた。唯一の喜びは、聡明な娘、美月の存在だけ。一族の敵から彼女を守るため、私は自身の本当の姿――強大な力を持つ白狼――を封印した。美月が誰もが羨む国際超常存在評議会でのインターンシップを勝ち取った時、私たちの静かな生活はようやく安泰だと思った。 だが、その一週間後。私は学校の片隅で、ぐったりと倒れている娘を見つけた。彼女の肌を焼く銀のロープで、手足を縛られて。彼女の夢は、私たちの一族のアルファの娘、麗奈によって無残に引き裂かれようとしていた。 「この雑魚が、私の席を奪えると思ったわけ?」 麗奈は嘲笑う。 「アルファである父様が、私のために確保してくださったインターンの席をね」 私の世界は、音を立てて崩れ落ちた。そのアルファとは、私の夫、蓮――十年来の運命の番。聖なる絆を通じて彼に助けを求めたが、彼は甘い嘘で私のパニックをあしらった。麗奈たちが私たちの子供を遊び半分に拷問しているのを、ただ見ているというのに。 決定的な裏切りは、彼の愛人、亜矢子が「アルファの番」のカード――蓮が彼女に与えた「私」のカード――を見せびらかした時に訪れた。彼は現れるや否や、皆の前で私のことなど知らないと言い放った。その罪は、私たちの絆を粉々に砕け散らせた。彼は私を侵入者と呼び、配下の戦士たちに罰を与えるよう命じた。彼らが私を膝まずかせ、銀で打ち据える間、彼はただそこに立って見ていた。 だが、彼らは皆、私を侮っていた。私が娘に渡した護り石のことも、そこに秘められた古の力のことも知らなかった。最後の一撃が振り下ろされた時、私は隠された通信経路である名前を囁き、一族が数世代前に交わした誓約を発動させた。数秒後、軍用ヘリが建物を包囲し、最高評議会直属護衛隊が部屋になだれ込み、私に頭を垂れた。 「ルナ・葉月様」 隊長が宣言した。 「最高評議会直属護衛隊、ただいま馳せ参じました」 第1章 葉月 POV: 「お母さん、やったよ!本当に受かったの!私、選ばれたんだよ!」 頭の中に響いたその声は、純粋で、何のフィルターもかかっていない歓喜そのものだった。それは何マイルも離れた場所にいる私たちを繋ぐ、娘の魂の声。母と子の間にだけ与えられた月の女神の贈り物、精神感応(マインドリンク)だ。 私は微笑み、目を閉じてオフィスの冷たい窓ガラスに寄りかかった。眼下にはきらびやかな光の絨毯のように街が広がっていたが、私の目に映るのは美月の輝く笑顔だけだった。 「あなたならできると信じてたわ、私の賢い狼。本当に誇りに思う」 「異種族間の青少年交流に関する私の企画案が、インターン応募者の中では過去最高に詳細だって言われたの。私、国際超常存在評議会に行くんだよ!信じられる?」 信じられた。私は数えきれないほどの夜を、彼女がその企画案を練り上げるのを手伝って過ごした。彼女が一つ一つの言葉に心を注ぎ込むのを見てきた。彼女は聡明で、意志が強く、そして自分が思っているよりもずっと強い子だ。 それは一週間前のこと。まるで遠い昔のことのようだ。 今、冷たい恐怖が、胃の底から這い上がってくる。私は手の中のタブレットを見つめ、画面上で点滅する一つの光点を睨みつけた。それは私が美月に渡した護り石の追跡装置だった。銀月の一族の古の紋章が刻まれた、銀のロケット。 それは彼女のお守りのはずだった。今では、私の膨れ上がるパニックの灯台と化している。 光点は動かない。もう一時間も、ずっと。 場所は彼女が通う名門校の、アルファの評議会室。彼女がいるはずのない場所だ。 私の中で十年もの間、鎖に繋がれ沈黙していた狼が、落ち着きなく歩き回り始めた。十年前、私の血筋が作った敵から美月を守るため、私は悪魔と契約を交わした。蓮の儀式に同意し、私の白狼を封印し、彼の平和の約束と引き換えに力を手放した。彼が今、破ろうとしている約束を。 エレベーターを使う気にもなれなかった。誰かに見られていれば、私の本当の姿がばれてしまうほどの速さで、一族の屋敷を駆け抜けた。数分後には車に乗り込み、エンジンが唸りを上げていた。 アカデミーは静まり返り、夜の授業はとうに終わっていた。私は通用口から、夕闇に紛れて影のように忍び込んだ。評議会室に近づくにつれて、古い木材とチョークの粉、そして何か……金属的で、鼻を突くような匂いがした。 恐怖。空気がそれで満ちていた。 重厚な樫の扉には鍵がかかっていた。私は躊躇しなかった。長い間抑え込んできた力が肩にみなぎり、木の扉に激しくぶつかった。古い錠前が鋭い音を立てて砕け散る。 中の光景に、血の気が引いた。 私の娘、私の聡明な美月が、部屋の隅でぐったりと倒れていた。彼女の手首と足首は、太く黒いロープで縛られていた。薄暗い光の下で、ぬらぬらと光るロープ。 銀。銀を溶かした液体に浸されたロープだ。 戸口からでも、彼女の肌にできた怒ったような赤い火傷が見えた。彼女の体が衰弱と痛みで震えているのがわかった。銀は私たち一族にとって毒であり、肉を焼き、腐食させ、治癒能力を妨げる物質だ。 「あら、どこのどなたかと思えば」 嘲るような声がした。 ゆっくりと顔を向ける。安っぽいメッシュに厚化粧の女が、腕を組んで立っていた。麗奈だ。彼女の後ろには、見覚えのある加部という教師が、満足げな表情で成り行きを見守っている。 「オメガの母親じゃない」 麗奈は侮蔑に満ちた声で言った。 「その哀れな娘を回収しに来たわけ?」 「何をしたの?」 私の声は、低い唸り声になった。 「ただ、身の程を教えてやっただけよ」 麗奈は得意げに一歩前に出た。 「この雑魚が、評議会の私の席を盗もうとしたの。アルファである父様が、私のために確保してくださったインターンの席をね」 世界がぐらりと揺れた。「彼女のアルファである父」。 この学校にいるアルファは一人だけ。評議会での地位を確保できる影響力を持つアルファも、一人だけ。 私の夫。蓮。 私が十年愛した男。私の子供の父親。私の運命の番。 裏切りは物理的な打撃となって、私の肺から空気を奪った。 私は私たちの魂を繋ぐ聖なる絆、番だけの特別な精神感応で彼に手を伸ばした。 『蓮、何が起きているの?』 彼の声はすぐに返ってきた。蜂蜜のように温かく滑らかで、十年もの間私の不安を和らげてくれた声。 『葉月、愛しい人。どうしたんだ?苦しそうだね』 『美月が…怪我をさせられてる。麗奈っていう女の子が…彼女のアルファの父親がって…』 『しー、僕の月の光』 彼は私のささくれた神経を癒す軟膏のような声で囁いた。 『学校での些細なイザコザだよ。心配しないで。僕たちが初めて会った時のこと、覚えてる?あの香り…雨に濡れた森と、月の光の香り。僕は狂おしいほど惹かれた。今でもそうだ。僕たちの間に割り込めるものなんて何もない』 一瞬、彼の言葉は昔ながらの魔法をかけた。彼は私の番。月の女神が私のために選んでくれた人。彼が…そんなことするはずが… その時、私は美月を見た。銀のロープが擦れて生々しく黒ずんだ肉を見た。娘の瞳に浮かぶ痛みが、蓮の作り出した幻想を打ち砕いた。 私は麗奈たちの忍び笑いを無視して、彼女のそばに跪いた。 「大丈夫よ、すぐにここから出してあげる」 結び目に指を触れる。灼熱の痛みが腕を駆け上り、銀が私の皮膚を蝕んだ。私は息を呑み、手を引いた。爪はすでに黒く変色していた。 「あら、困ってるの、オメガ?」 麗奈が嘲笑した。 「噛みちぎれば?あんたみたいな犬にはお似合いよ」 彼女の友人たちがスマートフォンを取り出し、その画面が彼らの残酷な顔を照らし、録画を始めた。 私は美月の涙に濡れた顔を見た。痛みなんてどうでもよかった。屈辱なんてどうでもよかった。 私は身をかがめ、銀の染み込んだロープに牙を立てた。 金属的で不快な味がした。顎に広がる灼熱の痛みは強烈だったが、私の狼、私の中の原始的な部分は、一瞬なら耐えられた。私は嘲笑もスマートフォンのフラッシュも無視して、噛み、引き裂いた。 ロープがぷつりと切れた。 次のロープに取り掛かっていると、麗奈が前に進み出た。彼女の手には、学校のマスコット犬の、泥だらけで半分噛み砕かれた骨があった。彼女は手首をひねってそれを投げた。骨は美月の顔面に直撃し、頬に泥の跡を残した。 私の中で、何かがぷつりと切れた。 十年感じたことのなかった、冷たい白い炎が血管の中で燃え上がった。銀月の一族の力、真の白狼の力が、私の中を駆け巡った。 私はゆっくりと立ち上がった。 麗奈が私の目の変化に気づく前に、私の手が飛んだ。平手打ちの乾いた破裂音が、静かな部屋に銃声のように響き渡った。麗奈は悲鳴を上げ、よろめきながら後ずさりし、今やありえない角度に曲がり、大量の血を噴き出している鼻を押さえた。 私は彼女を一瞥もせず、美月の首にかかったままの銀月の護り石に目をやった。それはただの追跡装置ではない。命綱だ。私は母に教わった順序で古の紋章を押し、両親がその遺産を託した唯一の人物に、必死の祈りを捧げた。 安全な接続が、通常のあらゆる経路を迂回して私の心の中で開かれた。 『龍岡櫂だ』 静かで、深い声が応えた。 「櫂」 私の声は氷のように冷たく、安定していた。 「私よ、葉月。誓いを果たしてもらう。最高の治癒師を連れてきて。今すぐに」
葉月 POV: 麗奈の目は、痛みと信じられないという気持ちが入り混じり、まるで初めて私を見るかのように、私に釘付けになった。 「龍岡櫂ですって?」 彼女は、止めようとしている血でくぐもった声で金切り声を上げた。 「暁の一族の筆頭治癒師じゃない!あんたなんかが知ってるはずない!」 彼女は美月の首にかかった護り石に飛びかかり、それを引きちぎろうとした。私は素早く動き、彼女の手を掴んで阻止した。彼女は甲高い声を上げ、打撲した手首を抱えて後ずさった。 「あんたみたいな哀れなオメガが、あの人の名前を口にする権利さえないのよ」 彼女は怒りに顔を歪め、唾を吐きかけるように言った。 「お母様がもうすぐ来るわ。あんたはアルファに跪いて、私にしたことの慈悲を乞うことになるんだから」 私は彼女を無視した。私の視線は床に、美月の足元に散らばった、破れた紙片に注がれていた。 評議会の公式な合格通知書。彼女の通行証。 記憶の波が押し寄せる。夜明けまで勉強し、疲労で青白い顔をしていた美月。鏡の前でプレゼンテーションの練習をし、震えながらも毅然とした声をしていた美月。彼女はインターンシップのためだけでなく、誰もが――そして彼女自身が――弱いとされているオメガの娘でも、それ以上になれることを証明するために、懸命に努力してきたのだ。 麗奈は私の視線を追った。残酷な笑みが彼女の唇に浮かぶ。彼女は歩み寄り、破れた通行証をかかとで床に踏みつけ、わざと公式の印章を泥で汚した。紙に残っていた娘のかすかで希望に満ちた香りが、完全に消し去られた。 時間通りに出頭する彼女の唯一のチャンスが、失われた。 「わかる?」 麗奈は嘲笑した。 「ゴミは床にあるのがお似合いよ」 麗奈の取り巻きの一人である、がっしりした体格の男の父親が、介入することに決めたようだ。彼は明らかに未来のルナに恩を売りたいのだろう。彼は私の腕を掴み、力を込めて、ベータの力で私を膝まずかせようとした。 「膝をつけ、オメガ」 彼は唸った。 「アルファの未来のルナを待たせる前に」 私は抵抗しなかった。ただ首を回し、彼の目を見つめた。私の目は冷たく、十年もの間偽ってきた温かさは微塵もなかった。 「牧村さん」 私は、騒音を切り裂くような静かな囁き声で言った。 「石川の一族の。あなたのアルファの名前はグレゴリー、でしたわね?あなたの縄張りは氾濫原にある。堤防は、葉月コーポレーションからの年間助成金で維持されている。私の署名で更新される助成金よ。取り消されたとお考えなさい」 男の顔が青ざめた。彼は火傷でもしたかのように、さっと手を引いた。彼の一族の名前、彼のアルファの名前――それはオメガが知るはずのない情報だった。彼は私を見つめ、その目に恐怖が浮かび始めた。 ちょうどその時、評議会室の扉が再び勢いよく開いた。 けばけばしい宝石と、きつすぎるドレスをまとった女が入ってきた。彼女の香水、安っぽくてむせ返るような花の香りが、私の感覚を襲った。 「一体何事ですの?」 彼女は要求するように言い、泣き叫ぶ娘に目をやった。 「麗奈、ベイビー!誰がこんなことをしたの?未来のアルファの娘をいじめるなんて、どこのどいつよ!」 この女が、亜矢子。 「彼女よ、ママ!」 麗奈は震える血まみれの指で、私を指さした。 亜矢子の視線が私に突き刺さり、その目は私のシンプルで実用的な服装を軽蔑するように見下した。 私は一言も発しなかった。ただ前に進み出て、今度はもう片方の頬を、麗奈に平手打ちした。その音は乾いていて、決定的だった。 「よくも!」 亜矢子は金切り声を上げた。 「ええ、よくも」 私は、彼女が今まで聞いたことのない権威に満ちた声で言った。私はいつも身につけている、服の下に隠していたチェーンをシャツの襟から引き出した。そこには、精巧に彫られた小さな銀の円盤がぶら下がっていた。 私はそれを掲げた。三日月を前に吠える狼、銀月の一族の古の紋章が、薄暗い光の中で輝いているように見えた。 「私は銀月の一族の最後の継承者、葉月」 私は力強く宣言した。 「私の番は黒森の一族のアルファ、蓮。そしてあなたたちは、私の娘を傷つけた」 一瞬、呆然とした沈黙が流れた。 それから亜矢子と麗奈は、爆笑した。 「銀月?あの一族は何十年も前に滅びたわ!」 亜矢子は嘲笑した。 「安物のガラクタで私を騙せると思ってるの?娘の治療費を払ってもらうわ。一億円よ!」 「結構よ」 私は冷静に言った。 「そしてあなたは、私の娘のドレス代を払うことになる。パリのデザイナーによるカスタムメイドで、守護のルーンが織り込まれているの。あなたの車より高いわ。それから、彼女の精神的苦痛の問題もある」 亜矢子の顔が怒りで紫色になった。 「嘘つき女!本当の力を持つのが誰か、見せてあげるわ!」 彼女はデザイナーもののハンドバッグをごそごそと探り、テーブルの上にカードを投げつけた。それは滑らかで、重厚で高価な、黒金のカードだった。その表面には、黒森の一族のトーテムである、唸る狼の頭が刻まれていた。 息が詰まった。心臓が氷のような拳で握りつぶされたような気がした。 そのカードに見覚えがあった。 それは「アルファの番」のカードで、一族内で最高レベルのアクセスと特権を与えるもの。先月、私の功績に対して最高評議会から授与されたカード。私が夫である蓮に、保管のために渡したカード。 そしてその上には、一族のトーテムのすぐ下に、亜矢子の安物の香水のむせ返るような香りが、蓮の馴染みのある松と土の香りと混じり合って、かすかに漂っていた。 パズルの最後のピースがはまった。私の結婚という棺に、最後の釘が打ち込まれた。 彼はただ浮気しただけではなかった。彼は私の地位、私の名誉、彼のルナとしての私の存在そのものを、この女に与えてしまったのだ。
葉月 POV: 亜矢子の笑みは勝ち誇ったもので、自分が勝ったと信じきっていた。彼女は完璧に手入れされた爪でこめかみをトントンと叩き、得意げな表情を浮かべた。 「私のアルファ、ダーリン、ちょっとしたオメガがここで騒ぎを起こしているの。あなたが来て対処すべきよ」 彼女の精神感応の送信の波紋を感じた。それは私が蓮と共有する親密な繋がりと比べると、粗野で公然とした放送だった。まるで図書館で誰かが叫んでいるのを聞くようだった。 そして、その応答を感じた。馴染みのある存在が、近づいてくる。私の番。 重厚な樫の扉が開いた。 私の十年間の夫であり、黒森の一族のアルファである蓮が、戸口にシルエットで立っていた。彼は出会った日と同じくらいハンサムで、その広い肩が戸口を埋め尽くし、その存在感は空気をピリピリさせるほどの力を放っていた。 彼の目は部屋を見渡し、ほんの一瞬、私の目と合った。私はその奥に衝撃が、一瞬の、無防備なパニックがよぎるのを見た。彼は私を見た。彼は傷つき、震えている美月を見た。 そして、それは消えた。冷たい無関心の仮面が、恐ろしいほど完璧に下ろされた。彼は私を、自分の娘を、まるで全くの他人であるかのように見た。 「蓮、ダーリン!」 亜矢子は叫び、彼のそばに駆け寄って腕にしがみついた。 「この狂った女が、私たちの麗奈を襲ったの!鼻を折ったのよ!」 麗奈は、完璧に役を演じきり、彼の高価なスーツのジャケットに顔をうずめて泣きじゃくった。 「パパ、彼女、自分があなたの番だって言ったの!頭がおかしいんだわ!」 部屋にいた他の親たちは、自分たちのアルファを見て、すぐに騒ぎ始めた。 「彼女は狂人です、アルファ!」 「ここに無理やり押し入ってきたんです!」 「滅びた一族の者だと名乗っています!」 蓮は、石のような仮面をかぶった顔で聞いていた。彼は私を見て、口を開いた時の声は、判決を下す裁判官の声だった。それは彼が私たちのプライベートなチャンネルで使う、温かく愛情のこもった口調ではなかった。私に向けられたことのない声だった。 「君が誰だか知らない」 彼は言った。一つ一つの言葉が、私の心臓を突き刺す氷の破片のようだった。 これは公然の否認。運命の番の掟を冒涜する行為。他人の前で自分の番を否定することは、最大の罪の一つであり、どんな物理的な打撃よりも深く魂を切り裂く傷だ。私は私たちの聖なる絆が震え、ひび割れるのを感じた。灼熱の痛みが魂を貫いた。 「彼女に膝まずいて謝らせて、パパ!」 麗奈は私を指さして要求した。 蓮は私を見ようともしなかった。彼は、彼に従ってきた二人の一族の戦士に、ほとんど気づかれないほどのわずかな頷きをした。 「侵入者を罰しろ」 それはアルファの命令だった。彼の声に潜む力の底流は否定できず、下位の狼に従順を強いる力だった。 しかし、私は普通の狼ではなかった。私の血に流れる白狼、月の女神自身にまで遡るアルファとルナの血が、その命令に逆らった。私はそれに抵抗できた。 だが、私は彼らを来させた。 二人の屈強な戦士が私の腕を掴み、その握力は鉄のようだった。彼らは私を冷たく硬い床に膝まずかせた。屈辱は物理的なもので、重いマントのように私にのしかかった。 麗奈は教師の机から重い木製の定規をひったくった。それは古く、装飾的なもので、装飾のために細い銀の線がはめ込まれていた。 彼女の目は悪意に輝いていた。 「これは私に触った罰よ」 彼女は唸った。 彼女は定規を高く振り上げ、私の背中に振り下ろした。 純粋な炎の線が私の皮膚に走った。銀の象嵌は、それを単なる打撃以上のもの、拷問にしていた。もう一撃、そしてもう一撃。それぞれが私に激痛の衝撃を送り、私自身の焼ける肉の匂いが鼻を満たした。 部屋の向こうで、蓮は無表情で立って見ていた。しかし、私には見えた。握りしめられた彼の拳に浮かび上がる血管が見えた。彼の顎で跳ねる筋肉が見えた。傷ついた私たちの絆を通して、私の痛みの残響が彼の中で響いているのを感じることができた。番の絆は双方向なのだ。私の苦しみは、彼の苦しみでもあった。 それでも、彼は何もしなかった。彼は、自分が仕組んだ計画のために、自分の番が打ちのめされるのを、ただ立って見ていた。 私は咳き込み、血と唾の飛沫が磨かれた床に落ちた。私は頭を上げ、汗で顔に張り付いた髪を払い、彼の目を見つめた。 私は彼に、血まみれの、打ちひしがれた笑みを向けた。 「ルナを拒絶したこと、後悔するわ」 私は弱々しいがはっきりとした声で、かすれた声で言った。 その言葉が私の唇から離れると同時に、新しい音が空気を満たした。低く、深い、急速に大きくなる鼓動音。それは重いローターが空気を服従させる音だった。 ドッドッドッ。 誰もが凍りつき、大きな窓の方を見た。 三機の軍用ヘリコプターが外にホバリングし、そのサーチライトが部屋をまばゆい白い光で満たした。開いたドアからロープが下ろされ、黒い戦術装備に身を包んだ人物たちが、恐ろしいほどの速さと正確さで降下してきた。 窓が内側に砕け散った。人狼最高評議会の記章を身につけ、武装した兵士たちが部屋に流れ込み、数秒で制圧した。 彼らのリーダーである、髪に銀の筋が入った厳格な顔つきの将校が、まっすぐ私に向かって歩いてきた。彼はアルファも、いじめっ子たちも、誰もかも無視した。彼は私の膝まずく姿の前に立ち止まり、古代の狼の忠誠の仕草である、低く正式なお辞儀をした。 「ルナ・葉月様」 彼は権威に満ちた声で言った。 「銀月の誓約は果たされました。最高評議会直属護衛隊、ただいま馳せ参じました」 部屋全体が死んだように静まり返った。力の均衡が、今、覆ったのだ。