奪われたルナ ― 彼の究極の後悔
第1章

五年もの間、私は「血月の一族」のアルファ、遠野彰人の運命の番(つがい)として、ルナの座にいた。 でも、その五年間、彼の心はたった一人の女――藤堂詩音のものだった。 私と詩音、二人の誕生日。 私の希望を繋ぎとめていた最後の糸が、ぷつりと切れた。 詩音が、大階段をゆっくりと降りてくる。 煌びやかな銀色のドレス。 彼が私へのサプライズだと約束してくれた、あのドレスを身にまとって。 一族全員が見守る前で、彼女は彰人の元へ歩み寄り、その頬にキスをした。 彰人はいつも言っていた。 詩音はか弱く、心に傷を負った狼なんだ、と。 守ってやる必要があるのだ、と。 何年もの間、私はその嘘を信じていた。 彼が私の夢を彼女に与え、私の誕生日には知らんぷりで、裏では彼女の誕生日を祝い、私にはルナという空っぽの称号だけを押し付けている間も、ずっと。 彼を問い詰めても、私の痛みなど気にも留めなかった。 「あいつは分かってないんだ」 千切れかけた絆を通して、彼の声が脳内に直接響く。 詩音にだけ向けられた、不満げな声。 「番だっていうだけで俺を縛れると思うな。息が詰まる」 息が詰まる? 彼の無関心という名の水の中に沈み、溺れかけていたのは、私の方なのに。 彼は私の番なんかじゃない。 ただの臆病者。 そして私は、女神が彼に押し付けた鳥籠に過ぎなかった。 だから私は、ホールから歩き去った。 そして、彼の人生からも。 私は、正式に彼を拒絶した。 絆が砕け散った瞬間、彼は初めて狼狽え、考え直してくれと懇願した。 でも、もう遅い。 もう、彼の鳥籠でいるのは終わり。 第1章 芙蕾雅(フレイヤ)視点: 「血月の一族」が所有する軽井沢の山荘、その大広間は、暖炉で燃える松の香りと、祝宴のテーブルに並んだ猪の丸焼きの匂いで満ちていた。 今夜は年に一度の祝祭。 そして、私の誕生日であり、詩音の誕生日でもある。 月の女神が、遠野彰人を私の番だと定めてから、五年目の記念日でもあった。 五年。 その一日一日が、まるで他人の人生を借りているかのような感覚だった。 毎年、彼の視線は、人混みの中からまず詩音を見つけ出すのだ。 私の内なる狼が、肌の下で落ち着きなく歩き回る。 不安の唸り声が、胸の奥で低く響いた。 彼がいない。 踊り狂う一族のメンバーたちを、もう十数回も見渡したのに、彰人の姿はどこにもなかった。 冷たい恐怖が、馴染みのある鋭さで、胃の腑に居座る。 私は祝祭の喧騒からそっと抜け出した。 柔らかなスリッパは、冷たい石の床に音を立てない。 どこを探すべきか、分かっていた。 アルファの書斎だ。 重厚な樫の扉が、わずかに開いていた。 耳を押し当てる必要すらない。 彼が忌み嫌っている、この微かで、途切れがちな番の絆を通して、彼のプライベートな精神感応(マインドリンク)の残響が伝わってくる。 アルファだけが授けることのできる特権。 彼の思考に直接繋がる回線を、彼は彼女との逢瀬に使っていた。 「もう少しだけだ、俺の小さな炎(ほのお)」 二人の精神空間にだけ響くはずの、低く、甘い囁き声が、毒のように私の心に染み込んでくる。 「真夜中の鐘が鳴ったら、一番にお前の声を聞く。お前に『誕生日おめでとう』って言う最初のアルファになるって、約束する」 息が、喉の奥で詰まった。 鮮やかで、希望に満ちた記憶が、目の裏で閃く。 二週間前、縄張りで一番の高級仕立て屋でのこと。 彼は月光を閉じ込めたようにきらめく、壮麗な銀色のドレスを手に取った。 「祝祭で、お前にサプライズがあるんだ、芙蕾雅」 その時の彼の瞳には、珍しく温かな光が宿っていた。 「今年は、違うから」 私は、信じてしまった。 愚かにも、その小さな希望の火種を大きく育ててしまった。 今年こそ、彼がやっと私を見てくれる。 運命の番である、彼のルナである私を、と。 今、書斎の外に立ち、私はすべてを理解した。 あのドレスも、あの約束も、サプライズも――何一つ、私のためのものではなかった。 すべて、詩音のためだったのだ。 千切れかけた絆が、彼の苛立ちで脈打つ。 彼女にだけ向けられた、苦々しい不満。 「あいつは分かってないんだ」 私のことだと、すぐに分かった。 「番だっていうだけで俺を縛れると思うな。息が詰まる」 息が詰まる? 私の方はどうなるの? 五年間、ずっと彼の無関心に溺れてきたというのに。 「祝祭が終わったら、お前の部屋に行く」 彰人は詩音に約束する。 その声は、吐き気がするほど甘く、温かいものに変わっていた。 「俺のために、あのドレスを着ていてくれ」 私の中で、何かが砕け散った。 しがみついていた最後の希望の糸が、ついに断ち切られた。 私は彼の愛する人じゃない。 本当の意味で、彼のルナですらない。 私は障害物。 女神が彼に押し付けた鳥籠で、詩音は彼の反逆であり、歪んだ自由の象徴だった。 私は扉に背を向けた。 体はこわばり、心臓は胸の中で氷の塊と化していた。 大広間に戻ると、ちょうど真夜中の鐘が鳴り始めた。 そこに、彼女がいた。 詩音が、大階段を降りてくる。 きらめく銀色の月光をその身にまとって。 私のドレスを。 彼女は最後の段で足を止め、勝ち誇ったような笑みを唇に浮かべると、闇の中から現れたばかりの彰人の元へ、まっすぐに歩み寄った。 そして、一族全員の前で、つま先立ちになり、彼の頬にキスをした。 私の狼が、苦痛に満ちた悲鳴を上げた。 私にしか聞こえない、純粋な苦悶の叫び。 私は顎を上げ、部屋の向こうにいる彰人と視線を合わせた。 彼は驚いたように目を見開き、一瞬罪悪感に顔を歪めたが、すぐに挑戦的な表情に変わった。 結構よ。 その反抗的な態度、好きなだけ見せていればいい。 私は一族全員に向けて、精神感応(マインドリンク)を開いた。 私の声は冷たく、明瞭で、祝祭のざわめきを切り裂く一本の思考となった。 「臆病者よ。くれてあげるわ」

第2章

芙蕾雅(フレイヤ)視点: 私の公然たる宣言の後、訪れた沈黙は、まるで生き物のように重く、息苦しかった。 彰人の金色のアルファの瞳が、衝撃に見開かれ、そして憤怒に細められる。 でも、私はその後の惨状を見届けるために留まったりはしなかった。 呆然とした息遣いや、パニックに陥った囁き声を無視して、私は背を向け、ホールを後にした。 ずっと後になって、彰人が私たちの寝室へやってきた。 私は窓際に座り、月が訓練場に長い影を落とすのを眺めていた。 彼は私の背後に立ち、馴染みのある松と冬の空気が私を包み込む。 愛情からではなく、ただの習慣で、彼は私の腰に腕を回そうとした。 彼の感触がまるで炎であるかのように、私は身をすくめた。 彼の手が、力なく落ちる。 初めて、彼は私が二人の間に築き上げた氷の壁を感じた。 温かく、心地よい川であるべきだった私たちの番の絆は、今や凍てついた荒野と化していた。 「芙蕾雅」 彼が低い声で話し始めた。 「やめて」 私の声は、空虚だった。 眠れなかった。 一晩中、私の頭の中は一族の者たちからの祝福の言葉でごちゃ混ぜになっていた。 彼らの精神的な声は、誕生日の祝いと、気まずい同情が入り混じった混乱の渦だった。 「お誕生日おめでとうございます、ルナ」 「大丈夫ですか、ルナ?」 「アルファは…ご機嫌斜めのようですが」 誰もがメッセージを送ってきた。 私の番、ただ一人を除いて。 翌朝、私は長いダイニングテーブルに座り、皿の上の食べ物をただ弄んでいた。 彰人が入ってくる。 すでにその日の職務のために革のチュニックを身に着けていた。 彼は私の目の下の隈を見て、その視線に何かが――苛立ちか、罪悪感か――ちらついた。 「よく眠れなかったのか?」 彼は何気ない口調で尋ねた。 まるで昨夜の出来事が、ただの悪い夢だったかのように。 私は顔を上げ、彼の目をまっすぐに見つめた。 私の声は平坦で、すべての感情が抜け落ちていた。 「今日は、私たちの番の記念日よ」 彼は凍りついた。 トーストを口に運ぶ途中で、手が止まる。 一瞬のパニックが顔をよぎったが、彼はいつもの無関心さでそれを覆い隠した。 「今年の貢物は、もう執事に命じてお前の金庫に届けさせた」 彼は突き放すように言った。 「好きなものでも買えばいい」 苦い笑いが、私の唇から漏れた。 宝石や金で、砕け散った魂が癒せるとでも思っているのだろうか。 私の嘲るような視線は、彼のアルファの深層本能に響いたらしく、彼を動揺させ、守勢に立たせ、苛立たせた。 彼は最も古く、最も信頼できる盾に頼った。 詩音だ。 彼の声は硬くなり、アルファの命令(コマンド)の鋭さを帯びた。 反論を一切許さない口調。 「詩音は違う。彼女の狼は子供の頃にトラウマを負ったんだ。彼女には俺しかいない」 一族はその話を諳んじていた。 狼人間が初めての変身を迎えるはずの十八歳の誕生日、火事が詩音の一家の城を破壊した。 両親は彼女を守って死に、そのトラウマで彼女の狼の魂は壊れ、完全な変身を遂げることができなくなった、と。 それは彼女に無限の同情をもたらした悲劇だった。 五年前、その話を聞いたのを覚えている。 私は信じていた。 月の女神の計画を信じていた。 私は私たちの番の儀式を受け入れた。 私の愛と、運命の絆の強さが、彼の見当違いの義務感を癒せると信じていた。 今なら、もっとよく分かる。 女神は私に贈り物をくれたのではなかった。 私を呪いに縛り付けたのだ。 もしあの時、今知っていることを知っていたなら、私はこの城から逃げ出し、二度と振り返らなかっただろう。 運命の番を拒絶する痛みなど、この五年間のゆっくりとした、苦痛に満ちた死に比べれば、何でもなかったはずだ。

第3章

芙蕾雅(フレイヤ)視点: 私たちの番の儀式の記憶は、恥辱の鮮明さで私の心に刻み込まれている。 私は新しいルナの伝統的な白い毛皮をまとい、一族の前に立っていた。 彰人は私の隣にいて、私の手を握っていたが、彼の目は群衆をスキャンしていた。 長老が古の儀式を唱え、最後の、束縛の行為――マーキング――の準備をしていると、抑えられたすすり泣きが静かなホールに響き渡った。 詩音だった。 彼女は最前列に立っていた。 彼女もまた白いドレスを着て、涙が顔を伝っていた。 彼女は全員に精神感応(マインドリンク)を開き、その声は絶望的で、子供っぽい泣き声だった。 「彰人、私を捨てるの?」 彼は凍りついた。 彼の牙が引っ込む。 一族全員が、彼らのアルファが運命と執着の間で引き裂かれ、ためらうのを見ていた。 その呪文を解いたのは、彼のベータであり、フィリップだった。 フィリップは前に進み出た。 その顔は厳しい決意の仮面で覆われ、泣きじゃくる詩音を力ずくでホールから連れ出した。 その時になって初めて、彰人は儀式を完了させた。 彼はそれを急ぎ、彼の噛みつきは不器用で浅かった。 私の首の印はほとんど見えないほど薄く、彼の分裂した心の哀れな象徴だった。 私たちの初夜は茶番だった。 私は私たちの寝室で彼を待っていたが、彼は一晩中バルコニーで過ごし、詩音のヒステリーをなだめるために彼女の心とリンクしていた。 彼が中に入ってきたのは太陽が昇る頃で、彼の目は疲れ果てていた。 「彼女はただの無邪気で、壊れた小さな狼なんだ、芙蕾雅」 彼は説明した。 「彼女は理解していないんだ」 最初は、私は彼女を哀れんだ。 本当に。 私は彰人と一緒に彼女を訪ね、彼女の「か弱い」狼の魂を癒すために、私の個人庭園から珍しい癒しのハーブを持って行ったことさえあった。 しかし、哀れみはすぐに疑念に変わった。 詩音の悲しみは悲しみのように感じられなかった。 それは所有欲のように感じられた。 彼女の目が私に向けられるたびに、その目には冷たく、隠しようのない敵意が満ちていた。 彼女は私を尊敬すべきルナとしてではなく、打ち負かすべきライバルとして見ていた。 最後の幻想が砕け散ったのは、ある嵐の夜だった。 彰人は国境警備で不在だったが、彼は私に精神感応(マインドリンク)を送り、その声は心配に満ちていた。 「詩音の狼がまた不安定だ。高熱を出している。彼女の様子を見てきてくれないか?」 もちろん。 私は思いやりがあり、理解のあるルナだった。 私は馬に鞍をつけ、豪雨の中を、一族が彼女のために用意した人里離れたコテージへと馬を走らせた。 彼女のドアは鍵がかかっていなかった。 部屋は虚弱な病人の病室ではなかった。 それは贅沢の巣窟だった。 空のワインボトルや高価な食べ物の皿がテーブルに散らかっていた。 そして詩音自身は、病衣ではなく、ほとんど透けて見えるほど薄いシルクのナイトガウンを着て、暖炉のそばでくつろいでいた。 私がびしょ濡れで戸口に立っているのを見て、彼女の顔は曇った。 その表情は、助けに感謝する病気の狼のものではなかった。 それは、意中の相手が現れなかった誘惑者の、純粋で、混じりけのない失望だった。 その瞬間、私は知った。 彼女は病気ではなかった。 一度も病気だったことなどなかった。 彼女は私のアルファを待っていたのだ。 私の番を。

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