私は, 婚約者である英志のために, 彼の会社の創業記念パーティーを完璧に準備した. しかし, パーティー当日, 彼は招待していない義妹の五月を連れて現れた. 「お姉ちゃん, 来てたの? 」 か弱さを装う五月の腕には幼い息子が抱かれ, 彼女は英志に寄り添っていた. 私が心血を注いだパーティーは, 私の知らないところで, 彼らのための「家族の集い」に変えられていたのだ. 「久美, 五月ちゃんは体調が悪くて困っているんだ. 君は分別があるからわかるだろう? 」 英志は私を「分別」という言葉で縛りつけ, 五月を庇った. 両親も, 弟も, 誰もが五月の味方だった. 彼らにとって, 私は都合のいい「世話役」でしかなかった. 長年, 家族という名の呪いに縛られてきた. しかし, その鎖はもう, 私を繋ぎとめることはできない. 私は冷たく微笑み, 彼らの前から姿を消した. これは, 私の人生を取り戻すための, 静かな復讐の始まり. 第1章 坂巻久美 POV: 英志は私の人生で最も大切な日を台無しにした. 創業記念パーティーの準備に, 私は文字通り心血を注いできた. 仕事が終わってから夜遅くまで, 週末もずっと, 英志のため, 彼の会社の成功を祝うために, 最高のパーティーを作り上げようと奔走した. それは, 多忙を極める彼が, ほんの少しでも私を気にかけてくれる, 特別な日になるはずだった. 彼の視線が私に向けられることを, 私はどれほど待ち望んでいたか. 彼の疲れた顔に, 私の努力が少しでも喜びをもたらせるなら, と. 会場の選定から, メニューの試食, 招待客リストの確認, 細部にわたる装飾まで. 私はすべてを完璧にこなした. 英志は「久美に任せておけば安心だ」と言った. その言葉が, 私の心に深く刻まれていた. 私は英志にとって, なくてはならない存在なのだと. パーティー当日, 私は早朝から最終チェックに追われた. 髪を整え, お気に入りのクリーム色のドレスを身につけた. 英志が好きな色. 私が彼のために選んだ香水を軽く纏う. すべては, 彼が私を見た時に, ほんの一瞬でも, その瞳に「美しい」と映してほしいから. 会場は都心の一流ホテル. シャンデリアの光が眩しく, 生演奏のジャズが贅沢な雰囲気を醸し出す. まるで夢のような光景だった. 私はホテルのロビーで, 英志の到着を待っていた. 彼が私を見つけ, その腕を私の腰にそっと回し, 「久美, よくやってくれたね. 君のおかげだ」と耳元で囁いてくれる. そんなロマンチックな瞬間を, 私は何度も何度も心の中で描いていた. そして, その瞬間が訪れた. ロビーの回転ドアがゆっくりと開き, 見慣れた英志の姿が見えた. 私の心臓は高鳴り, 体中の血が沸騰するような感覚に陥った. しかし, 彼の隣には, 予想もしない人物がいた. 坂巻五月. 私の義妹だ. 彼女は白いワンピースを着て, その腕には小さな男の子を抱いていた. 五月は, 私の方を見つけると, 少し驚いたような顔をした後, すぐにいつもの, か弱げな笑顔を浮かべた. 「お姉ちゃん, 来てたの? 」 その声は, まるで私が邪魔者であるかのように響いた. 私の心臓は, 高鳴りから一転, 冷たい鉛の塊になったように感じた. 全身の血が, 急速に冷えていく. 「五月? どうしてここに? 」私はかろうじて声を出した. 英志は私を見るなり, 少しバツが悪そうな顔をした. 「久美, ちょうど良かった. 五月と蓮くんが来たんだ. 」 蓮くんは五月の息子だ. 五月は英志の腕にすがるようにして言った. 「英志さん, 私, 本当に来るべきじゃなかったですよね. 久美お姉ちゃんの邪魔になったらどうしようって... 」 その声は震え, 瞳は潤んでいた. いつもの被害者ぶった演技だ. しかし, その目に微かな勝利の光が宿っているのを, 私は見逃さなかった. 「そんなことないよ, 五月ちゃん. 君が来てくれて嬉しいんだ. 」 英志は五月の肩を優しく抱き寄せた. その光景は, 私の視界を歪ませる. まるで私がそこにいないかのように. 「英志, 彼女は…招待客じゃないわよね? 」 私の声は, 私自身が驚くほど冷たく響いた. 英志はためらいがちに答えた. 「ああ, それが, 五月ちゃんが急に体調を崩してしまって. 息子さんもいるし, 心配でね. それで, 僕が呼んだんだ. 」 私が準備したパーティーに, 私の許可なく, 私の義妹を呼んだ? 「英志さん, 本当にごめんなさい. 私, 英志さんに迷惑をかけるつもりじゃ... 」五月は英志の胸に顔を埋めた. その仕草は, あまりにも慣れたものだった. 私は知っていた. 五月が, 常に自分を弱く見せることで, 周囲の同情を引くことに長けていることを. ホテルのロビーには, 招待客が続々と到着し始めていた. 英志の会社の同僚や取引先の人々が, 好奇の目を向けているのがわかる. 私はその視線が, まるで鋭い針のように肌に突き刺さるのを感じた. 「英志さん, 蓮くん, 少し疲れてるみたい. お部屋で休ませてあげないと. 」 五月は, あえて大きな声で言った. 英志はすぐに同意した. 「そうだね. 久美, 悪いけど, 五月ちゃんと蓮くんを先に部屋に案内してあげてくれるかな? 君の部屋があるだろう? 」 私の部屋? 私が着替えるために借りている部屋を, 五月とその息子に明け渡せと? 私は一瞬, 言葉を失った. この日は, 英志と私が主役の, 私たちのためのパーティーのはずではなかったのか? 英志は私の顔色に気づかないふりをして, 五月の背中を優しく撫でた. 「久美, 君は賢いからわかるだろう? 五月ちゃんは, 本当に困っているんだ. 」 その言葉は, まるで私を操るための呪文のようだった. 「分別がある」というレッテルを, 英志はいつも私に突きつけてきた. 私の心は, 冷たい氷の塊になった. 目の前の光景は, あまりにも残酷だった. 私はただ, 立ち尽くすしかなかった. 英志は五月と蓮くんを連れて, 私に背を向けた. 彼らの後ろ姿が, 私から遠ざかっていく. 私のために用意したはずのシャンパンが, 喉の奥で苦い味を広げた. 私はその瞬間, スマートフォンを取り出した. 五月がSNSに投稿しているかもしれない, という胸騒ぎがした. まさか, とは思ったが, 画面を開くと, そこにはまさにその予想通りの光景が広がっていた. 五月のアカウントからの投稿. 英志と彼女, そして蓮くんが, 私のドレスアップした姿が映り込むロビーで, 笑顔で寄り添い, まるで家族写真のように写っていた. キャプションには「英志さんが, 私と蓮のために, 特別に招待してくれました. 感謝しかありません…! 」と書かれていた. 私の心臓は, 誰かにぎゅっと握りつぶされたように痛んだ.
坂巻久美 POV: 英志は五月と蓮を連れて, ホテルの奥へと消えていった. 私はロビーの中央で, まるで透明人間になったかのように立ち尽くしていた. 華やかな空間なのに, 私の周りだけが凍りついているようだった. 周囲の視線が, 私に突き刺さる. 彼らは, 私と英志の関係, そして五月の存在に, 何か特別な意味を見出しているようだった. パーティーは予定通り始まった. 私は顔に貼り付けた笑顔で, 招待客たちと挨拶を交わす. 彼らは口々に「素晴らしいパーティーですね, 久美さん」「英志さんも喜んでいるでしょう」と褒め称えた. その言葉が, 私の心臓をさらに深くえぐる. 英志は, 一体どこで何をしているのだろう? 彼がこのパーティーの主役なのに, 姿が見えない. 時間が経つにつれて, 私の期待は絶望へと変わっていった. 英志が戻ってくる気配はない. 私は何度もスマートフォンを握りしめ, 彼からの連絡を待った. しかし, 通知は一つも届かない. 会場の時計の針が進むたびに, 私の心は冷たく, 重くなっていった. 午後9時を過ぎた頃, 私は再び五月のSNSをチェックした. そこには, さらに残酷な写真が投稿されていた. 英志が, 五月の部屋で, 蓮を膝に乗せて絵本を読んでいた. 五月は, 英志の肩に頭を預け, 幸せそうに微笑んでいる. キャプションには「蓮が英志さんと遊びたがって, 少しだけお邪魔しちゃいました. 英志さん, 本当に優しい…」と書かれていた. 写真の背景には, 私が着替えるために使っていた部屋の壁紙が映り込んでいた. 私の部屋だ. 私のための部屋で, 英志と五月が, まるで家族のように過ごしている. 私の心臓は, 文字通り引き裂かれるような痛みを感じた. パーティーは, 私のためのものなどではなかった. 英志の優しさは, 私に向けられたものではなかったのだ. 私は, その場に崩れ落ちそうになった. しかし, 私は坂巻久美だ. 「分別がある」と常に言われ続けてきた, 坂巻家の長女だ. 人前で感情を露わにするなど, 考えられなかった. 私は震える手でスマートフォンを握りしめ, 会場の隅にある人気のないバルコニーへと向かった. 冷たい夜風が, 私の頬を撫でる. 私の体は, まるで氷のように冷え切っていた. 私の心も, 同じくらい冷たかった. 私は, 自分がどれほど愚かだったかを思い知った. 英志は, 私の「分別」に甘え, 私を軽んじていたのだ. 彼にとって, 私は便利で, 都合の良い存在でしかなかった. 私はポケットから, 英志がプロポーズの時にくれた婚約指輪を取り出した. きらきらと輝くダイヤモンドが, 私の目に痛い. この指輪は, 私たちの愛の証だったはずだ. しかし, 今となっては, それはただの空虚な, 欺瞞の象徴でしかなかった. 私は震える指で, その指輪を握りしめた. 私の掌から, 指輪の冷たさが伝わってくる. 私はバルコニーの手すりから, 夜空を見上げた. 星空は, あまりにも遠く, 私の心と同じくらい暗かった. 私は, その指輪を, 遠くの街の光に向かって, 思い切り投げつけた. 指輪は, 夜の闇へと吸い込まれていった. 私の心から, 何かが千切れるような音がした気がした. それは, 私と英志の間にあった, 最後の絆だったのかもしれない. 指輪が消えた瞬間, 私の目から, 熱い涙が溢れ出した. 止まることなく, 頬を伝い, 冷たい夜風に吹かれて乾いていく. 私はその場で, 膝から崩れ落ちた. もう, これ以上, 我慢することはできなかった. 私の愛は, 私の信頼は, 完全に踏みにじられてしまった. 私は, 英志と家族への期待を, 完全に断ち切ることを決意した. 私の心は, 冷たく, 空っぽだった. 私はもう, 彼らを愛することはできない. 私はスマートフォンを取り出し, 英志へのメッセージ画面を開いた. 指が震え, 画面を打つのに時間がかかった. 「英志, 私たちの婚約は終わりよ. 」 送信ボタンを押す直前, 私の脳裏に, 英志の顔が浮かんだ. 彼は, このメッセージを見て, 何を思うだろう? 驚くだろうか? 悲しむだろうか? いや, 多分, 彼は五月と蓮くんのことで頭がいっぱいだろう. 私のメッセージなど, 彼の心には届かない. 私は最後の力を振り絞って, 送信ボタンをタップした. スマホの画面には「送信済み」の文字. 私の指は, もう震えていなかった. 私の心も, もはや痛みを感じなくなっていた. ただ, 空虚感が, 私を包み込んでいた. 私は, この夜を境に, 生まれ変わる. 私の人生は, もう二度と, 彼らのために捧げられることはない.
坂巻久美 POV: 送信ボタンを押した瞬間, 私の体から全ての力が抜けた. その場に座り込み, 冷たい石畳に頬をつけた. 涙はもう枯れ果てていた. 私の心は, 何もない, 真っ白な空間になっていた. 英志からの返信は来なかった. いや, 来るはずがない. 彼は今, 五月と蓮くんの世話で忙しいのだ. しばらくして, 私は立ち上がった. 会場に戻る気力はなかった. 私はホテルの部屋に戻り, 静かに荷物をまとめ始めた. 私の私物, 英志からの贈り物, そして私が彼のために買った服. 全てをトランクに詰め込んだ. この部屋には, 私の痕跡を一切残したくなかった. 部屋の中は, 私の心と同じように冷え切っていた. 英志との思い出が, まるで幻のように, 私の脳裏を駆け巡る. 彼と初めて出会った日のこと. 私が坂巻家の長女として, 常に「分別がある」ことを求められ, 心を押し殺してきた日々. そんな私を, 彼は理解してくれると信じていた. 私が坂巻家に引き取られたのは, 六歳の時だった. 老舗和菓子屋「さかまき」の長女として, 私は常に完璧であることを求められてきた. 両親は私が「分別がある子」であると周囲に示し, 私自身もその期待に応えようと必死だった. しかし, その「分別」は, 私の感情を抑圧するための鎖でもあった. 五月が坂巻家にやってきたのは, 私が10歳の時だった. 両親は, 突然現れた義妹を「可哀そうな子」として迎え入れた. 五月は, 常に病弱で, か弱く, 周囲の同情を引くことに長けていた. 「久美, 五月は体が弱いから, あなたが守ってあげなさい. 」 「久美, 五月はまだ幼いから, あなたが我慢しなさい. 」 「久美, 五月は私たちがいないところで何かと大変だから, あなたが面倒を見てあげて. 」 その言葉は, まるで呪文のように, 私の心に深く刻み込まれていった. 私は五月の世話を焼き, 彼女のワガママを受け入れた. しかし, 五月は私のものを巧妙に奪っていった. 私の好きなもの, 私の褒められたもの, 私の期待されたもの. 全てが, 五月のものになっていった. 私が少しでも反論しようとすると, 五月はすぐに涙を流し, 両親は私を責めた. 「久美, どうして五月を泣かせるんだ! 」 「久美, あなたは分別がある子でしょう! 」 そのたびに, 私は自分の感情を押し殺し, 沈黙を選んだ. 私の心は, 徐々に凍りついていった. 英志と出会ったのは, 私が22歳の時だった. 彼の大手商社でのエリートとしての地位, そして優しく紳士的な振る舞いは, 私にとって希望の光だった. 彼は私が抱える心の闇を理解してくれると信じていた. 「久美さんは, いつも周りのことを考えていますね. 本当に優しい人だ. 」 英志の言葉は, 私の凍りついた心に, 温かい光を灯してくれた. 彼は, 私の家庭での苦悩を理解しているかのように, 私を慰めてくれた. 「久美さんのご家族は, 五月さんのことを心配しているんですね. でも, 久美さんも頑張っている. 僕が, 久美さんの支えになります. 」 その言葉に, 私はどれほど救われたか. 私は英志に, 私の心の全てを打ち明けた. 英志は, 私の話に真剣に耳を傾け, 私を抱きしめてくれた. 「僕が, 久美さんを幸せにする. もう, 誰も久美さんを傷つけさせない. 」 彼の言葉は, 私にとって, 甘い蜜のようだった. 私は彼を, 私の唯一の救いだと信じていた. しかし, 今, その希望は粉々に砕け散った. 英志は, 五月のか弱さに付け込まれ, 私を裏切った. 彼は, 私を操るために「分別」という言葉を使った. 彼は, 坂巻家の両親と同じだったのだ. トランクを閉め, 私は部屋を出た. ホテルの廊下は静かで, 私の足音だけが響く. エレベーターでロビーに降りると, そこには英志と五月, そして蓮くんがいた. 彼らは, チェックアウトの手続きをしていた. 「あ, 久美お姉ちゃん! 」五月が私を見つけるなり, わざとらしい笑顔で言った. 「どこに行ってたの? もう帰っちゃうの? 」 その声は, まるで私が無責任な行動をしているかのように響いた. 英志は私を見るなり, 少し驚いた顔をした. 「久美, もう帰るのか? まだパーティーは続いているだろう? 」 彼の声には, 私への心配など微塵も感じられなかった. 「英志, 私たち, 話すことがあるわ. 」 私の声は, 私自身が驚くほど冷静だった. 英志は眉をひそめた. 「こんなところで? また何か, 五月ちゃんのことで文句でもあるのかい? 」 彼の言葉は, 私の心を深くえぐった. 彼は, 私が五月を責めているとでも思っているのか? 「英志さん, 私, やっぱり, 久美お姉ちゃんと仲良くしたいです... 」五月は英志の腕にすがり, 涙ぐんだ. 「でも, いつも, 私を責めるんです... 」 その瞬間, 私の頭の中で, 何かがプツンと切れる音がした. もう, これ以上, 我慢する必要はない. 私の心は, 完全に自由になったのだ. 「いいえ, 五月さん. 」私は冷たい声で言った. 「私は, あなたを責めてなどいないわ. ただ, 言いたいことがあるだけ. 」 英志は五月を抱き寄せ, 私を睨みつけた. 「久美, やめろ! 五月ちゃんは, ただ子供の世話で疲れているだけだ! 」 彼の言葉は, 私の心に, もはや何の痛みも与えなかった. 「英志, あなたは, 私のことを全く理解していなかったのね. 」私は静かに言った. 「私たちの婚約は, もう終わりよ. 」 英志の顔から, 血の気が引いた. 彼は一瞬, 言葉を失った. 五月は, その様子を見て, わずかに口角を上げたように見えた. 「久美, 何を言っているんだ! 冗談だろう? 」英志の声は震えていた. 「冗談なんかじゃないわ. 」私は冷たく答えた. 「私は, あなたを愛していた. あなたの会社の成功を願い, あなたのために尽くしてきた. でも, あなたは, 私の気持ちを踏みにじり, 私を軽んじた. もう, これ以上, あなたと一緒にいることはできない. 」 私の言葉は, まるで氷の刃のように, 英志の心に突き刺さったようだった. 「そんなことはない! 久美, 俺は君を愛している! 」英志は私の腕を掴もうとした. 私は彼の手を振り払った. 「あなたは, 私を愛しているんじゃない. 私の『分別』を愛しているだけよ. 私の便利さを, 私の都合の良さを, 愛しているだけ. 」 私の言葉は, 英志の顔を凍りつかせた. 彼は, 私の言葉の真意を理解したようだった. その瞬間, 五月が泣き崩れた. 「英志さん, 私, どうしたらいいの... お姉ちゃんが, こんなに怒ってる... 」 英志は, すぐに五月を抱きしめた. 「大丈夫だ, 五月ちゃん. 君は悪くない. 」 その姿を見て, 私の心は完全に冷え切った. 「英志. あなたは, これからも, 五月さんを守ってあげて. 」私は静かに言った. 「私は, もう, あなたたちの世界には, 関わらない. 」 私はトランクのハンドルを握りしめ, 英志と五月に背を向けた. 英志は, 私の後ろ姿に何かを叫ぼうとしたが, 五月のすすり泣く声に阻まれた. 私の足は, 迷うことなく, ホテルの回転ドアへと向かった. 私はもう, 彼らのことを振り返りはしない.